2017.09.17
本州そして大陸から。菓子文化のるつぼ。九州後編・沖縄編【にっぽん、いとお菓子。#13】
「にっぽん、いとお菓子。」は、全国の銘菓を年間1,500種類以上食べ尽くしている三越伊勢丹和菓子担当バイヤー・田中美穂さんが、特に食べてほしい! というアイテムを47都道府県ごとにセレクト。北から順に日本銘菓の味わい深さを紹介する連載企画です。
今回は、宮崎、熊本、鹿児島の九州地方後編と沖縄編。本州と大陸の文化がミックスされたお菓子たちは、どこか異国情緒漂う風情が魅力です。
多彩な文化と歴史のハイブリッド。九州と沖縄の銘菓4選
①【宮崎県】<金城堂>つきいれ餅(6個入) 481円(税込)
②【熊本県】<松風本家 正観寺丸宝>松風(8包入) 540円(税込)
③【鹿児島】<明石屋>かるかん饅頭(5個入) 918円(税込)
④【沖縄県】<新垣菓子店>ちんすこう(10袋入) 648円(税込)
「九州地方は、国作り神話の発祥の地という歴史があると同時に、古来より大陸や異国文化の入り口でもあった土地。そのため、思いがけない文化のハイブリッドから生まれたお菓子も多く、発想の自由さも魅力です」
①【宮崎県】伝説から生まれたお菓子「つきいれ餅」
田中さん「そのいわれは、なんと神話時代までさかのぼる由緒あるお菓子です。神武天皇の船出の際、出発時間が早まってしまったため村人が餅に小豆をつき混ぜて急ごしらえで作り、献上したという伝説から生まれたとか。菓遊庵で扱っているのは、求肥の餅に当時を偲ばせる小豆入りのものと、宮崎県の特産品日向夏を入れたものの2種類のセットです」
――赤と金のパッケージにいわれの神々しさもほのかに感じますね。「小豆入り」をいただきます。とても伸びのよい平たい求肥餅の中に入った、ほんのり甘くほっくりした小豆がたまらないアクセントですね! 求肥は、噛むほどにじんわりと広がっていくような控え目の甘さがうれしいです。
田中さん「神話時代の……というと仰々しく感じてしまいますが、決して派手なお菓子ではなく、宮崎の日常になじんだもの。手の平サイズでペロリと食べられるのも手軽ですよね」
②【熊本県】ありそうでなかった極薄瓦せんべい「松風」
田中さん「私、これ大好きなんです(笑)。一度食べ出すともう『やめられない止まらない』で……。その味わいは例えるなら超極薄の瓦せんべいでしょうか。それが1包みに20枚ほど重ねられています。落としたらすぐに割れてしまうほど薄く、パリパリとした食感、裏面にまぶされたケシの実の香ばしさで、気づいたらいつもペロリと食べてしまうんです」
――ありそうでなかった、正統派の和菓子が絶妙に進化した趣きは、やはり九州という土地柄なのかもしれませんね。口に入れたと思ったらあっという間にパリパリッと口の中で崩れて、後を引きます。
田中さん「そのはかなさも『松風』の名にふさわしいですよね。表面にはケシの実で装飾されているのに、裏側は何もないうらさびしさを『松風の音』にかけて付けられた商品名だそうです。『日本一薄い和菓子』の美味しさは、一度ご賞味いただけるとよくわかると思います。……実は製造元から『作るのに手間がかかるため大量納品はできない』といわれているので、本当は誰にも教えたくないんですが(笑)」
③【鹿児島県】ルーツは大陸の汁物?「かるかん饅頭」
田中さん「『かるかん饅頭』は、もともと鹿児島で親しまれていた『かるかん』の中にこし餡を入れたもの。かるかん=軽羹の『羹』の文字は、中国では汁物を指すそうで、かるかんのルーツも大陸にあるのでは、ともいわれています。米粉に自然薯を混ぜることで、普通のお饅頭にはない軽さがあるんです」
――確かに軽い! 生地の目の中にたっぷり空気を含んでいる感じですね。でも生地はとてもしっとりしていて、噛んだときにジュワッという音がしそうなくらい。中のなめらかなこし餡と相性抜群です。
田中さん「この味を出すために欠かせない自然薯が、近年は希少なものになりつつあるので……正直、いつ入荷ストップと言われてしまうかハラハラしています(笑)。菓遊庵では毎週火・土曜日の週2回入荷があるのですが、当日中になくなってしまうほどの人気商品。絶対食べたい人は、事前予約がおすすめです」
④【沖縄県】ラードを使った唯一無二の和菓子「ちんすこう」
田中さん「多くの人が一度は口にしたことがあるであろう沖縄土産の定番ですが、元祖はここ<新垣菓子店>なんです。<新垣菓子店>は実は沖縄初の和菓子店。今でも家族経営で営まれているようで、丁寧な作りがこの素朴な味わいにつながっているのだと思います」
――ラードを使った沖縄ならではのお菓子ですよね。この口の中でほどける食感がたまにとても恋しくなります。<新垣菓子店>の『ちんすこう』は、深みがあって、やさしい味ですね。
田中さん「しっかり焼きこんであって、香ばしさもありますよね。ちんすこうを販売している店はいくつかありますが、元祖を味わいたいなら、この船のイラストのパッケージが目印です」
本州と異国の文化の交差点、九州・沖縄地方。常に異なるもの同士の衝突があったからこそ、ユニークな和菓子が生み出されてきたのかもしれません。ハイブリッドなお菓子誕生の歴史に思いを馳せながら頬張れば、きっと美味しさもひと味違うはず。
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