2017.01.23
「献上加賀棒茶」カフェイン少なめ、昭和天皇も好まれたほうじ茶~すっきりとした庶民的な味わい
ほうじ茶というと煎茶に比べ、庶民的なイメージを持たれている人が多いかもしれません。そんなほうじ茶の概念を覆すのが<丸八製茶場>の「献上加賀棒茶」。「献上」という名の通り、昭和天皇に献上されたこともある、由緒あるブランド茶なんです。 <丸八製茶場>6代目の丸谷さんにお話を聞いてみると、ほうじ茶開発の裏にはドラマチックなストーリーが。 金沢を代表する特産となった「献上加賀棒茶」の秘密に迫ります!
「献上加賀棒茶」って何がスゴイの?
一般的なほうじ茶と、「献上加賀棒茶」の茶葉。並べてみると、形状も色も全然違います!
一般にほうじ茶の原料となるのは、1年に4回ほど収穫される茶葉のうち、夏以降に収穫した茶の葉。渋みが強くなり煎茶には向かない茶葉を強火で香ばしく焙じるため、茶色く焦げたような見た目となるのだそう。カフェインも渋みもほとんど飛んでいるので誰にでも飲みやすい反面、香りや味に際立ったものがなく、大衆的ともいえます。
「対して『献上加賀棒茶』は、日本茶としてもっとも価値の高い一番茶の茎の部分を使用。遠赤外線バーナーを使用し、焦がさないよう芯から火を入れて焙煎。ふっくら仕上がるよう浅煎りにしています。素材のうまみを損なわず、豊かな香気とすっきりとした甘さをキープしているので高級感も感じていただけるはずです」
<丸八製茶場>の運命を変えた「献上加賀棒茶」誕生のきっかけとは?
今では金沢の特産として広く知られるようになった「献上加賀棒茶」ですが、その誕生までには大きく2つの転機があったといいます。
<丸八製茶場>の創業は1863年。もともと茶園の管理を行っていた同店に最初の転機が訪れたのは大正11年。当時、安価なお茶として人気だった、茶の茎が原料の「棒茶」を「加賀棒茶」と名付け、売り出したそう。
「それまでは捨てていた茎の部分を使ったので、原材料はタダ同然。このときは本当に安さを売りにした庶民の茶だったようです」
しかし、その後の明治後期から昭和にかけ、戦争の影響もあって茶園はどんどん畑に変えられ加賀の製茶業が縮小。そんな苦境の中で第2の転機が訪れます。当時取引のあったホテルに昭和天皇が宿泊されることに。その際にお出しするほうじ茶を<丸八製茶場>で作ってほしいという依頼が舞い込んだのです。
「当時昭和天皇は82歳。刺激のあるお飲み物を避けていらしたため、ほうじ茶が求められたんですね。とにかくよい原料を使おうと、全国から茶葉のサンプルを取り寄せ、たどり着いたのが鹿児島の一番茶。さらに、せっかくだから石川県らしく棒茶にしようということになり、試行錯誤の末『献上加賀棒茶』が誕生しました」
価格は以前の10倍に。新生<丸八製茶場>の挑戦
こうして生まれた「献上加賀棒茶」。かつてない味わいを生み出せたことは、店の自信にもつながったそうで、これまでと180度やり方を転換。「安売りの丸八」から日本一高い棒茶を扱うお茶屋へと転身を図りました。天皇への献上の翌年に商品化した際には、100gをなんと1,000円で販売! それまで安価な商品は200g 198円で販売していたのだから、大きな変革です。
「最初の数年はまったく売れませんでしたが、利益よりも理念が大事だったんです。よい原料を、それを活かす製法できちんと仕上げ、本当によいものを作っていくんだという気持ちで続けてきました。今では地元金沢のブランドイメージにもひと役買えるほど、成長することができてうれしいです」
抽出時間はわずか25秒! 美味しい淹れ方
かつての献上品ときくと敷居が高く感じてしまいますが、楽しみ方はとても簡単です。茶葉の量の目安は、湯のみ茶わん1杯分でティースプーン約2杯(3g)。茶葉を入れた急須に沸かしたての熱湯を注いで、蒸らし時間はたった25秒でOK! 上質な茶葉を使用しているため、煮出す必要はないんだそう。蒸らしすぎると雑味が出てしまうので、一気に湯のみに注ぎます。湯のみ茶わんに注がれたお茶は琥珀のようなきれいな色。そして部屋いっぱいに広がるやさしい香りがたまりません。
「どこか懐かしいような、ホッと落ち着くようなやわらかな香り。この香りこそ『献上加賀棒茶』の特徴だと思います。素材を活かした浅煎り製法によって香り成分が増え、繊細な香りを感じることができます」
実食! 「献上加賀棒茶」と意外なグルメのマリアージュ
一般的なほうじ茶は食中茶としても好まれ、何にでもよく合いますが、独自の美味しさと高級感のある「献上加賀棒茶」には、特にどんなものが合うのでしょう? 編集部が丸谷さんと一緒に、普段ほうじ茶とは合わせないようなメニューとの組み合わせを試してみました。
「献上加賀棒茶」×酢豚
「脂っこい食事には特によく合いますね。熱々のお茶で豚の脂が溶けて美味しい。中国茶のような感覚で楽しめます」
「献上加賀棒茶」×ガパオライス
「ガパオライスには辛さがあるので……熱い棒茶を飲んでしまうと辛さが増すかもしれません。アイスほうじ茶にすると甘さが際立ちますし、口の中をリセットしてくれそうですね」
「献上加賀棒茶」×クレーム・ブリュレ
「これは合います! 加賀棒茶の香ばしい香りと、カラメルの焦げた香りがぴったり! カスタードのクリーミーさとも相性がよいみたいですね」
予想外のメニューとも好相性で、豊かな香りが気持ちをリラックスさせてくれる「献上加賀棒茶」。淡い色の茎に詰まったドラマに思いを馳せつつ、至福の1杯を楽しみましょう!
文久3年(1863年)創業。加賀で一番茶の旨味を生かした棒茶を製造・販売。6代目の丸谷誠慶さんは、カーナビメーカーに勤務したのち、30歳のときに家業を継承。「日本の若者にもっとお茶のある生活を」とさまざまな形でお茶の魅力を伝える。老舗蔵元や生産者の跡取りたちによるユニット『HANDRED』のメンバーでもある。
HANDREDに関する記事はこちら。
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