2016.07.20
食べた瞬間パリの情景が広がる!? ル・グルニエ・ア・パンのバゲットが美味しいワケ
カウンターに並ぶクラシカルなパンたち。それはかつて私を感激させた、フランス、パリ18区にある町、モンマルトルの<ル・グルニエ・ア・パン>(以下グルニエ)を思いださせるものだった。
グルニエといえば、パリのバゲットコンクールで2回の優勝を誇る「バゲット」。ザザッ、ザザザザ。バゲットの皮を噛むと、大きな音を立てて爆裂する。硬く、薄く、軽やかなのだ。口にすると、「これが小麦粉か?」と思うほど甘い。そして、後味にはジンジンするようなミネラル感が……。そのためか、このパンは料理と合わせてほしいと強烈にインスパイアしてくる。そう、フレンチのひと皿に残ったソースを、これでぬぐってみたくて仕方がなくなるのだ。
そんな本場フランスのパンに、恵比寿で出合える。
芳醇な香り、バリバリの皮と軽やかな生地が生まれるワケ
このバゲットを焼くのは、アンジェのグルニエ本店、パリ・モンマルトル(バゲットコンクールで2回優勝した名シェフがいる店)の両方で経験を積んだ中島佐知子シェフ。彼女がイメージするのは、フランス人がブーランジェリーを出た瞬間思わずバゲットをパクりとやってしまう、あの焼きたての美味しさだ。そのために、本店とモンマルトルの店をいいとこ取りした製法を採用している。特に発酵方法が特徴的で、その方法は成形前に冷蔵発酵を行うというもの。
「こうすると、うまみの成分が閉じこめられます。普通の温度帯と冷蔵の温度帯、両方を通過させることで、それぞれに特有の香気成分が出るんです」(中島シェフ)
美味しさのこだわりは、発酵方法だけではない。
「ミキシングはざっくりと粉と水を合わせるだけ。成形は、モルダー(バゲット成形のための機械。フランスのボンガード社のもの)を使うことで、なるべく生地をいじらないようにしています」
生地を傷めず、またグルテンを強めすぎないことで、軽やかな生地が生まれる。だから、歯が皮にすっと入って、バリバリと割れる快楽を体験できるのだ。
「雨の日は皮がしっとりしやすいので、焦げるぐらい焼かないと、販売担当の人が納得しないんです(笑)」
バゲットは皮が硬くて食べにくいものという先入観はないだろうか。そうではなく、グルニエのバゲットはまさに硬いゆえによく割れ、食べやすいバゲットなのだ。
これも食べておきたい。フランスを感じる注目のアイテム
バゲット以外のパンもフランス文化をしっかりと受け継いでいる。注目のアイテムを確認していこう。
①バターの風味が濃厚でミルキーな! 「クロワッサン」
クロワッサンもフランスで食べたときのあの感動に接近する。ザクザクザクと、金属的な音が口の中で響くほど硬く、細かく割れる。一方、その下にある中身はむにゅうとニュアンスに満ちた弾力。バター感は甘く、濃く、ミルキーで、さすがはフランス・イズニーのAOP発酵バター、と溜息をつかせる濃厚さ。
②バゲットと具材の組み合わせが絶妙「バゲットサンドイッチ」
バゲットに具材をはさんだサンドイッチも実にフランス的。たとえば、キャロットラペ。バゲットがバリバリと割れフランス産小麦の濃厚なフレーバーが満ちるそのあいだから、ワインビネガーの香りと人参のすがすがしい香りが立ちのぼったとき、私の目の前にパリのブラッスリーの風景が彷佛とされたほどだ。
③アーモンドペーストと粉糖の重厚な甘さ「ボストック」
クロワッサンやデニッシュの生地から作られるヴィエノワズリーも最大限フランスの伝統が尊重され、クラシカルなスタイルが貫かれる。
なかでも注目は、ブリオッシュを加工して作られるボストック。シロップにはオレンジフラワーウォーターが入れられ、フローラルな香りを滲ませる。生地からする卵の香りに、アーモンドペーストの甘さ、粉糖の雪が溶けるようなシュワッとした口溶けが折り重なり、重厚な甘さができあがる。ここでも、日本人向けに甘さを弱めることはしない。
「フランス人は甘いものにコーヒーを合わせるので、これくらいの甘さでちょうどいいと思うようになりました。和菓子と抹茶を食べるあの感じですね」
併設のカフェで焼きたてのパンやヴィエノワズリーと一緒にコーヒーを楽しむのが至福。眼下に臨むのは恵比寿の駅前の風景。慌ただしいターミナル駅にいながら、ゆっくりとしたブレイクを満喫できる穴場が誕生した。
池田浩明
パンを食べる研究を専門に行う「パンラボ」主宰、ブレッドギーク(パンオタク)。日々パンを食べ、パンを考え、パンと遊んでいる。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』などがある。
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