2015.11.22
「COEDOビール」の伝道師が教える、クラフトビールの深〜いトリビア!
現在、大きな盛り上がりを見せるクラフトビール。WEB FOODIEでは、これまでクラフトビールの基礎知識から、世界で注目を浴びる銘柄や日本の新進気鋭のブルワリーなどを紹介してきました。
でも実は、クラフトビールにはまだまだ知らないことがたくさんあるようです。
「ビールの歴史は古くまで遡ります。ヨーロッパはもちろん、アジアやアフリカに至る世界中で、各地の雑穀を含む麦を主材料として、“ビールらしき物”が造られてきました。実はすごく奥が深い!」
そう語るのは、日本のクラフトビール界の草分け、「COEDO(コエド)ビール」の松永将和さん。最前線のビール造り・営業・セミナーなどの活動を通じて、クラフトビールに広く携わってきた松永さんに、ビールの知られざるトリビアを教えてもらいました。
ビールの意外な歴史、原料の秘密、製造設備の変革など……。これを知れば、友人たちとクラフトビールを飲みながら「実はビールってね……」なんて、一層楽しく飲めるはず!
トリビア1 ピラミッド工事の報酬は「ビール」だった!?
ビールの歴史は古く、およそ5,000年以上前から造られていたと考えられます。古代エジプトでは、ピラミッドの建造に関わる人々の報酬はビールだったとか……。
原始的なビールの原料は「水」と「麦」、それと空気中を漂う「酵母」のみ。製造方法もとてもシンプルで簡単なので、麦作を行いパンを食していた地域では、自然とビールが存在していたと考えられます。
トリビア2 大胆に想像!日本最古のビールは鎌倉時代に造られたかも!?
日本でビール造りが始まったのは明治時代。「それ以前は一般人がビールを飲むことはなかった」というのが定説です。ところが、その700年も前の鎌倉時代に、すでにビールが造られていたのでは……と考えることもできるよう。
なぜなら、「麦作」が行われていたから。「麦が雨に濡れて発芽→そこから粥やうどんを作る→そのままアルコール発酵」という流れで、偶然にも原始的なビールが生まれる可能性があるんだとか。
文献など正式な資料がないのは、酒造りは免許制だったため。アンダーグラウンドで造られた『違法なお酒』だったゆえ、表の世界に出てこなかったのかもしれません。そういった背景を鑑みると、日本にも鎌倉時代に原始的なビールが存在したと想像できるのです。
トリビア3 本来、ビールは種類が豊富な「地酒」だった!
現在、「ビール」と聞いてほとんどの人が思い浮かべるのが「白い泡の乗った黄金色」の飲み物。画一的なイメージが定着しています。
しかし、ビールが食文化として定着しているドイツやベルギー、イギリスなどのビール大国では、製造される地域によって、ビールの色や香り、味わいは大きく異なります。たとえば、ドイツ南部のバイエルン地方では「ヴァイツェン」といううまみの強い白ビール、ドイツ東部のケルンではフルーティなアロマとすっきりした味わいの淡色ビール「ケルシュ」など。画一化されたイメージが生まれたのは最近のこと。元々は地産地消の「地酒」のような、地域性に富んだ存在だったのです。
トリビア4 「産業革命」がビールの大量生産を可能にした
いま主流となっている、すっきりとして飲みやすい「ピルスナー」スタイルのビール。この「ピルスナー」ができたのは、5,000年以上にも及ぶ長いビール史の中でほんの170年ほど前のことです。 その契機となったのが、18世紀後半に起きた産業革命でした。
「ピルスナー」は発酵時の温度を8度くらいの低温に保つ必要があるため、かつては洞窟などの寒い場所でしか造れませんでした。しかし産業革命によって冷蔵設備が急激に発達し、年間を通して安定的な製造が可能になったのです。
また、高倍率の顕微鏡が発明されたことで酵母菌の選別が可能に。雑菌汚染を防いで安定した発酵ができるようになりました。さらに、フランスの細菌学者パスツールの発明した低温殺菌法によって日持ちするようになり、流通にのせることも可能になったのです。
これらの技術革新が、「品質安定化」「大量生産化」「流通化」によってビールを近代化へと導きました。さらに、飲みやすい味わいのビールを「冷やして爽快に飲む習慣」が定着し、ピルスナースタイルは長いビールの歴史の中で、誕生から一気に世界を席巻するに至ったのです。
トリビア5 クラフトビール人気の背景には、「造り手側」の変革があった
日本では今からおよそ20年前、酒税法の改正によりビールの最低製造数量基準が2,000㎘から60㎘へと緩和されました。それをきっかけに、かつての「地ビールブーム」が起こり、現在のクラフトビール人気へと繋がっています。しかし、クラフトビール人気は日本だけの現象ではありません。今では世界中で人々に受け入れられています。
その人気の理由のひとつが、醸造設備の技術向上です。
近年、ビールの醸造設備の技術が飛躍的に進化したことに加え、最新設備の小型化が進みました。高額ですが最新醸造設備を購入できれば、一定品質レベル以上のビールを造ることが容易になっています(もちろん醸造の知識は欠かせませんが)。
現在のクラフトビール人気の背景には、新たな造り手が業界に「参入しやすい」環境があったこと、一定品質以上のビールを小ロットで多種多様に造れるようになったことなど、「造り手側の変革」があったのです。
トリビア6 ビールの「テロワール(土地の味)」とは?
たとえば、ワインの出来はぶどうの出来に大きく依存し、ワイナリーとぶどう農家は直接結びついています。ぶどうが栽培された気候風土が味わいに大きく影響し、「テロワール(土地の味)」と呼ばれて重要視されるのです。
対してビールの場合、農家が栽培した大麦は原料としてそのままブルワリーには運ばれません。一度「麦芽製造会社」に集められて大麦から麦芽に加工され、その後、世界中のブルワリーの手に渡り、原料として使用されます。
ただ、最近では大麦栽培から麦芽製造までを自社で行い、
さらに近年は、ビールの「テロワール」に変化が起きています。
トリビア7 麦芽×ホップ×酵母=無限大の組み合わせ
ビールの原料は「麦芽」、「ホップ」、「酵母」、それに「水」の4つ。
「麦芽」は前述の「麦芽製造工場」で行われるカラメルや燻製、ローストや乳酸発酵などの加工法によって、たくさんの種類の麦芽があり、ビールを造るには何種類かの麦芽を混ぜ合わせて使用します。苦みと香り付けのために使われる「ホップ」も、白ワインやグレープフルーツのような香りなど100種類以上もあり、ビール用の「酵母」も100種類以上あります。さらに、できあがったビール同士をブレンドするという手法もあるので、その種類は無限大にあると言えるでしょう。
現在、日本だけでなく世界中で盛り上がりを見せるクラフトビール。アメリカでは、2009年に1,600程度だったブルワリーが、2014年時点では3,400を超え、5年で倍増。また、ドイツに現存する世界最古の老舗ブルワリーが、スコットランドの新興ブルワリーとコラボするなど、ビール業界内でもクラフトビールは存在感を急速に増しています。
バラエティ豊かな地酒が、産業革命によってひとつの価値に画一化されたビール。再び個性的な銘柄が出現した現在の流れは、原点回帰とも言えるのかもしれません。
取材協力:松永将和さん
高校時代、理科の実験でキューネ発酵管を使ったアルコール発酵を目の前にして酵母活動に興味を持つ。さらに修学旅行で訪れたサッポロビール園でビール造りにふれ、工場でのダイナミックな製造と、顕微鏡で見るマイクロサイズの酵母活動のギャップに興味を持ち、ビール造りの道へ。ドイツのマイスターからビール造りを学び、その後およそ8年間ビール造りに携わってきた。
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