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2015.11.14

花と食で彩る日本の暦〜「立冬」、「小雪」

あたり一面を覆い尽くす落ち葉

「冬の気立ち初めていよいよ冷ゆれば也」(暦便覧)

関東では「木枯(こがらし)」が吹き抜けていく季節になりました。ユーラシア大陸から吹いてくるこの強い風は、日本海側では雨や時には雪をともなって「時雨(しぐれ)」と呼ばれます。山を越えて太平洋側に届く頃は乾燥して「木枯」となります。その名の通り、木の葉を吹き散らして、どんぐりをぱちぱちと屋根やアスファルトにたたきつけ、心をざわつかせもしますね。

「風土」という言葉がありますが、気候と土地の有様のことをいいます。もともとは中国起源の言葉で「季節の循環により土地は生命力を与えられるが、この力は地表を吹く風による」のだそうです。甲骨文字を見てみると、風は神の吐く息であり、鳳(おおとり)の象形となっていて、四方にそれぞれ風の神がいたことがわかります。北の鳳が羽ばたくごとに、大地は冷やされていくのでしょう(ちょうどこの記事を書きはじめた夜が「木枯らし一号」と発表されました)。

さて、11月の二十四節気は「立冬」そして「小雪」です。「立冬」は冬の気が立つことで、この日から立春までが「冬」となります。関東の花暦はざっと見渡してみると、イイギリナンテンや千両万両の実が色づきはじめたり、グミの実や、秋楡(あきにれ)の実が熟し、蓼(たで)の花が盛り、ヤツデや枇杷(びわ)の木の花の蕾が膨らんできています。観葉植物もしまわないといけませんね。

そして「小雪(しょうせつ)」。『暦便覧』では「冷ゆるが故に雨も雪となりて下るがゆへ也」とあります。この頃はすべてが紅葉する頃ではないでしょうか。冬の前の太陽の残り火のように赤い照り葉を見つけることができます。澄んだ光が降りそそぐ「小春日和」は、この頃のちょっとしたエアポケットのような晴れの日をいうのですね。

冬支度をはじめる蓑虫

「病む人に買うて戻りし熊手かな」(高浜虚子)

先ほど、鳳(おおとり)が出てきましたので、「酉の市」のことを書きたいと思います。今年は「一の酉」から「三の酉」まであります。縁起物づくしの熊手「縁起熊手」は見ていて飽きず、微笑ましいものです。そもそもたいてい真ん中におかめ(お多福)がニコニコしていますので、ついつられてしまいます。熊手に合わせておかめの後ろには、末広がりの扇が広がっています。海山の幸をもたらしてくれる恵比寿様と大黒様は一対で、米俵の上にのっていらっしゃる。目出たい鯛もシンメトリーにぴちぴちとしています。滝登りの鯉は立身出世、蕪は株があがるからでしょうか。お札(ふだ)は開運招福、家内安全、商売繁盛。大入り袋、大判小判に、植物は松に梅、笹、熊手は竹でできているし、稲穂も飾って、福を振り出す打ち出の小槌、的、巾着袋もあります。豪華なものだとサイズがまずビックリするほどで、米俵や金銀財宝をどっさり積んだ宝船に七福神が乗っていたり、みながみなふくよかでおおらかで、豪華で絢爛で、これでもかというくらい賑々しく福を尽くしたものです。キッチュで、愛敬があって、嘘っぽいけど、肖(あやか)りたくなるから不思議ですね。

「福(ふく)」は「吹く」「噴く」でもあります。つまり先ほどの神様の息吹。

扇は風を象徴します。お多福は「笑う門には……」ですし、天岩戸神話ではアメノウズメノミコトが踊ると集まった神々も笑い(「咲った」と書かれています)ました。お隠れになっていたアマテラスはその賑やかさにそっと岩戸をずらしたところ、タヂカラオが岩戸を引き投げました。すると世界は再び光りに満ち、神々の顔もことごとく白く光った(面白)といわれます。おかめのまわりにはたくさんの「ハナ」が飾られるのです。みのり、予兆、予祝としての縁起物です。

お菓子で有名なのは「切山椒」。切山椒とは、山椒を入れた短冊形の新粉(うるち米の粉)の菓子で、酉の市の名物として知られています。山椒は日本最古の香辛料といわれています。葉、花、実、幹、樹皮に至るまで、すべてを利用できる蜜柑科の落葉低木です。揚羽蝶が好んで卵を産みつけます。山椒の木はとても硬くすりこぎや杖としても利用されています。捨てるところがないすべてが有益だという縁起から切山椒が商われるようになりました。短冊に切ってありますが、拍子木のかたちともいわれています。切り火というおまじないにも似て、火の用心ということでもあったのでしょうか。ほかにも小判に見立てた「黄金餅」などがあったようですが見かけたことはありません。

それにしても酉の市の賑わいは冬の初めの風物詩。三本締めの手拍子や、威勢の良いかけ声など、気っ風のよさは清々しくて、悪いものを祓い、すっと前を向かせてくれるようです。すし詰め状態の人いきれや、提灯や裸電球の灯り、夜店の屋台も色とりどり品様々、匂いも取り混ざって活気があります。

福をかき込む熊手、お庭をつくっている一人としては、この季節に特に大切な道具だということも思い出します。竹の素材をよく活かした硬すぎない弾力をもった道具は、苔や下草や飛び石などの傷を抑え、手に伝わる力がやさしいのです。落葉は集めて、少しく彩りを楽しんだら堆肥場へ運びます。氏神様の神社では、焼き芋をしたりしますが、焚き火をするには消防署へ届出が必要。わずかですが、このときできる灰も畑に使います。できるだけ都心でも「めぐる庭」づくりを心がけています。

色とりどりの落ち葉

日を限って月を愛で、生を共有する

中秋の名月、後の月見の十三夜、そして十日夜(とおかんや)を「三月見」と呼びます。旧暦の10月10日の月を愛でる十日夜は今年最後の「お月見」です。十日目の月のかたちはちょっとふくらんでいて「お米」に似ています。それで「稲の月見」という別名もあります。いつ見たって月は綺麗なのですが、日を限って共生の感覚を共有してきたのでしょう。

月は「草の母」。冬を迎える前に穀物の成長を促し、雨や稲妻をもたらしてくれる月に感謝します。時節がら細長い日本列島全体でお米を中心に収穫がすっかり終わって、里へ降りて来て田畑を見守ってくださった山の神様をいよいよお送りする時期でもあります。「とし」とは「いね」の古語でもあります。この収穫祭が終わると、慌ただしく新しい年のお正月迎えの準備をはじめなくてはなりません。山の神様は使いの猪にのってお帰りなります。多分道すがら「いのこずち」の実を毛皮にたくさんつけて。

竹ざるに広げられた小豆

酉の市で今年の実りや福をかき込んで、収穫祭で月へ実りの感謝をしたら、もう師走。熊手で落葉をかき集め、往ってしまう秋の朽ち葉の匂いや焚き火の香りを嗅ぎながら、冬の凍てついた木立に射し込む光や、枯れ芒の紫紅葉や、穂の惚けたの、さむそうにしている苔や、山茶花椿、冬芽のかわいらしさなどなど、やってくる冬の季節を楽しみにいたしましょう。

花と食で彩る日本の暦〜二十四節気『清明』_4塚田有一(つかだ ゆういち)

ガーデンプランナー/フラワーアーティスト/グリーンディレクター。 1991年立教大学経営学部卒業後、草月流家元アトリエ/株式会社イデーFLOWERS@IDEEを経て独立。作庭から花活け、オフィスのgreeningなど空間編集を手がける。 旧暦や風土に根ざした植物と人の紐帯をたぐるワークショップなどを展開。 「学校園」「緑蔭幻想詩華集」や「めぐり花」などさまざまなワークショップを開催している。

文: 塚田有一

写真:みやはらたかお

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