2015.08.13
タイと日本の地方をつなげる「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」
タイと日本47都道府県の食がつながる? そんな異色のコラボレーションを実践している「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」。なんだかおいしそうな名前ですが、日本全国各地の特産品や旬の地場食材と本格的なタイ料理とをかけ合わせ、国を越えたプラットフォームをつくり出しています。代表の西田誠治さんに、尽きることのないタイと日本地方食の魅力をうかがいました。
日本の生産者とタイをつなぐ「47×77」
2010年に始動した「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」は、タイ料理と各都道府県のローカルフードにフォーカスを当て、東京や地方の各地で定期的に食のイベントを開催しています。
日本の食材を使って、タイ料理を作る。すぐには想像できないかもしれませんが、滋味あふれる地方食材から飛び出すアイデアは参加者をあっと驚かせるものばかり。全国各地の生産者と連携し、地域の希少な地場食材や特産物を素材に、タイ料理研究家のシェフが腕を振るった「新タイ料理」が、イベントを重ねるごとに次々と生まれています。
このイベントの目標は47都道府県を達成すること。その背景には、日本の47都道府県とタイの77県を掛け合わせた「47×77」を合い言葉に、食を通して日本とタイに新たなネットワークを生み出そうとする西田さんらの思いがありました。
タイに魅了されたきっかけは、生命力あふれる明るさ
そもそも、以前は空間デザイナーとして活躍されていた西田さん。どうしてタイと食のプロジェクトを手がけるようになったのでしょうか。その理由は、休職中にたまたま訪れたタイが人生を変えるきっかけになったからだそうです。
「タイの人の底抜けの明るさに呼ばれた気がしました」と、語る西田さん。微笑みの国、など独特の魅力があるタイですが、西田さんが現地に降り立った日は、ちょうど国民的なお祭り「ソンクラン」(タイにおける旧正月で水掛け祭りとして有名)の日だったそう。そこに集う人々のまぶしいくらいのパワーや生命力に圧倒された西田さんは、一気にタイの魅力に惹き込まれていったそうです。同時に、何を食べてもおいしかったという記憶から、タイ料理の虜になり、日本に帰ってくる頃にはタイレストランで働くようになったほど。
また一方で、熊本県出身の西田さんは、年々過疎化していく日本の地方にも思いをめぐらせていました。「昔は、ど田舎にある自分の地元がイヤだったんです。でも、世界を旅しながら日本をふりかえってみると、まだまだやれることがたくさんあることに気が付きました。では、これから自分たちの世代は何をするのか? と考えたとき、過去の恵みを継承しながら、現代とマッチングしていく方法が必ずあると思いました。そこから、僕が出会ったタイと日本をつなぐという、『Local to Global』のコンセプトが生まれたのです」
自由な発想が、新たなローカル料理の可能性を高める
さて、日本の地方食材はどんな「新タイ料理」を生み出しているのでしょうか?
たとえば、vol.01 岩手県verでは、地酒の「南部美人」を提供し、日本酒とタイ料理のマリアージュを体験してもらったそう。米食文化のタイであれば、日本酒にあるお米のうまみがわかるはず。実際、辛めのタイ料理とスッとのどごしの良い日本酒の相性は最高だったそうです。
また、タイ料理には「ヤムヌア」という牛肉のサラダがありますが、vol.03 北海道十勝ver. では新得町トムラウシ産の蝦夷鹿肉をたたきにしてヤムヌア風サラダに。きちんと処理されたフレッシュな鹿肉はやわらかくて、臭みもほとんどないのだとか。鹿肉は需要と供給バランスが合わず、さまざまな課題を抱える食材ですが、こうしたアイデアから新たな流通ルートを獲得できる可能性が見えてきました。
しかし、地域によってはタイ料理になじみがない人が多いのも事実。そこで、最近では「47都道府県の地方食材でつくる!あじわう!ご当地グリーンカレーレシピコンテスト」を実施。日本でもおなじみのグリーンカレーに、個性豊かな地域の食材を組み合わせたアイデアを募るというもので、名古屋名物きしめんにはじまり、長野の定番おやき、長崎の焼きサバなど、あらゆるものがグリーンカレーの素材になりました。こうしたアイデアコンテストからも、新たな地域の魅力が見えてきたのだそう。
日本の食材をタイへ、世界へ
近年はタイ国内でも、和食や日本産の食材の関心は高まっているといいます。西田さんによると、茨城産のメロンや、生食用のトマトなどは、現地のものと比べると3倍ほどの値段になるにもかかわらず、その品質の高さが評価され、タイ人富裕層の人気を呼んでいるのだそうです。それに、タイの滞在邦人数は約6万人。和食レストランは2,000店ほど出店しており、その層の厚さも人気を後押ししています。
そして、西田さんの活動はどんどんと多岐にわたり、現在はタイ料理にとどまらず、日本の農業の生産者とタッグを組んでつくったブランドを、海外に積極的に展開するプロジェクトも進めています。
2014年には、青森県弘前市で雹(ひょう)害にあったりんごに着目し、新たなブランディングを展開。「雹KISSりんご(雹がりんごにキスをした)」というメッセージを掲げたりんごは、雹(ひょう)の害をあえてロマンチックなイメージに変換。本来であれば販売できない傷のついたりんごを、次々と出荷することに成功しました。このりんごはマイナスイメージを有効利用する方法として、メディアに取り上げられたり、有名飲食店でも使われたりしたことで、みごと13トン強の雹害りんごの完売にいたったそうです。
また、熊本県八代市では、畳表で使用する地域特産物のいぐさを食用に栽培する生産者や販売問屋と連携し、食べるいぐさ「ゆいのくさ」というブランドを設立。生産者と共に日本国内のみならず、タイへの販路に取り組んでいます。実は、タイ国内にも工芸用のいぐさを栽培する地域があり、いぐさは用途は違えどもなじみのある植物。そこで、そうめんにいぐさを練り込んだ「いぐさそうめん」は、日タイの多くのメディアに取り上げられ、食物繊維が豊富であるとして、新たな健康食材としても大きな注目が集まっています。
「今後は、タイ以外の国にもマーケットを広げていくことを視野に入れています」と語る西田さんは、地方・日本・海外を1本の線でつなぐイメージを常に持っているのだと話してくれました。
「Yum! Yam!」 と、綴りのひとつを「a」にしたのは、Yamというのがタイ語で「和える」を意味する言葉だから。日本とタイの国を越えた「おいしい」文化を文字通り掛け合わせることで、日タイの食の架け橋プロジェクトとして成功させたい。そんな西田さんの強い想いが込められているのです。
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