2015.04.18
あの街の、あの一杯:富山県射水市 カフェ uchikawa 六角堂
ふと思い出す遠い街の一杯のコーヒー、もしくはワイン、それとも。記憶をうるおす一杯の液体にまつわる人々や風景。いずれ訪ねたくなるだろう、未来の懐かしい味と時間のガイドをリレーコラムでご紹介する連載。第一回は編集者の神吉弘邦さんが、富山県、射水(いみず)市にある不思議なかたちの『カフェ uchikawa 六角堂』を教えてくれました。
北陸新幹線のさらにその先、万葉の浜へ
北陸新幹線の開通で、首都圏からのアクセスが便利になった富山。新幹線「新高岡」駅からJR「高岡」駅へ。そこからローカル線の「万葉線」が、射水市の海辺まで伸びている。
街中をゆっくり走る路面電車に30分ほど揺られて「新町口」に到着。のんびりした街並みを歩けば、ほどなく内川が見えてくる。
ここからは新湊と呼ばれる地区。実は、奈良時代から千年近くの歴史がある。大伴家持が『万葉集』で詠んだ「奈呉(なご)の浦」も、このあたりの浜を指している。
古い寺院、壮大な曳山(ひきやま)が出る祭、木造家屋。古くから残るものが地域の人たちに愛され、そのまま受け継がれるよう心くだかれてきた場所。ただ、近年はこの街も人口が減り、古民家を所有しながら便利な都会で暮らす人も増えたという。
2年前、そんな内川沿いにオープンしたのが「カフェuchikawa六角堂」だ。築70年の2階建て木造家屋のリノベーション。直前には畳屋が営まれていたが、5年ほど使われていなかった。
変わる街の様子と、変わらない川の流れを見つめてきた六角堂。窓辺からは、街を行き交う人々と、屋根つき橋梁「東橋」が眺められる。
潮の満ち引きでゆっくり変わる、おだやかな内川の流れ。その情景と呼応するように、多くの人でにぎわう日も店内には落ち着きがある。入店できる利用者を13歳以上に限定するほか、四季と時間帯にあわせてBGMも慎重に選曲されている。
旅の終わりのような、オーガニックで優しい味わいのコーヒーを
提供メニューは、できるだけ無添加なものにこだわる。モカ・イルガチェフの「六角堂ブレンド」はオーガニックコーヒー。旅路の終着点のような土地で、千年の流れに思いをはせながら、心おだやかに味わえる一杯だ。
この街、このカフェでは、せわしなく時を意識することがない。「内川は夜が素敵な街ですよ」とオーナーの明石博之さんは帰り際に言った。
内川沿いを歩いていると、街の催しだろうか。カエターノ・ヴェローゾの唄声がどこからか聴こえてくる。夕闇がせまる目の前の情景に、その調べが不思議とマッチしていた。
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