2017.07.17
銘菓にあふれる土地柄と歴史。中国地方編【にっぽん、いとお菓子。#11】
「にっぽん、いとお菓子。」は、全国の銘菓を年間1,500種類以上食べ尽くしている三越伊勢丹和菓子担当バイヤー・田中美穂さんが、特に食べてほしい! というアイテムを47都道府県ごとにセレクト。北から順に日本銘菓の味わい深さを紹介する連載企画です。
今回の舞台は中国地方。山陽地方と山陰地方――同じ中国地方でありながらも気候や風土が異なる2つの土地柄。その違いはお菓子にも表れているようです。
土地の背景が凝縮された5県の銘菓
① 【広島県】<やまだ屋>もみじ饅頭(1箱) 720円(税込)
② 【岡山県】<橘香堂>むらすゞめ(4個入) 651円(税込)
③ 【岡山県】<廣榮堂>きびだんご(10個入) 411円(税込)
④ 【山口県】<江戸金>亀の甲せんべい(1缶) 756円(税込)
⑤ 【島根県】<彩雲堂>若草(6個入) 1,080円(税込)
⑥ 【鳥取県】<つるだや>白羊羹(1本) 810円(税込)
「同じ中国地方のくくりの中でも、いわれを紐解いていくと山陽、山陰それぞれの特徴が出ていておもしろいんです。山陽地方には人が行き来する中で生まれたお菓子が多く、山陰地方のお菓子からは、住む人が真摯に土地と向き合ってきたことが感じられます」
①【広島県】観光地名物として誕生した「もみじ饅頭」
田中さん「もみじが美しいと名高い観光名所、紅葉谷の名物として明治時代に作られたもみじ饅頭。さまざまなメーカーが手がけていますが、<やまだ屋>さんのものは、特にカステラ生地と餡の量のバランスが絶妙。なめらかなこし餡が口の中ではかなく溶けて……疲れたときに食べると心に浸みるやさしい甘さなんです」
――餡はもみじ型の中心に入っていて、端の部分はカステラだけなんですね。あらためて味わってみると、たしかに食べたときのバランスが素晴らしい! もみじ饅頭が実はこれほど計算されたお菓子だったとは……。
田中さん「<やまだ屋>さんは、新しいことにもどんどん挑戦しているメーカーで、バラエティに富んだフレーバーを出しているのも特徴です。日本橋三越本店では1種類のみのお取扱いですが、『吟醸チョコもみじ』、『レモンもみじ』……など、意表を突くものまで常時15~20種類程度もあり、もみじ饅頭の懐の広さにも驚かされます」
②【岡山県】倉敷生まれのハイカラ和菓子「むらすゞめ」
田中さん「クレープ生地の中につぶ餡がたっぷり包まれている岡山県倉敷市の銘菓です。日本橋三越本店では、元祖である<橘香堂>さんの『むらすゞめ』を扱っています。実はこのお菓子の誕生は120年以上前。米倉が多かったことがその名の由来になった倉敷では、お盆になると豊作を祈願する踊りをおどっていたそうなんです。その様子が稲穂に群がるすずめのようであったことから、『むらすゞめ』が作られたそう。小麦粉で作ったお菓子が珍しかった時代に、地方都市でこんなにシャレたものが生み出されたのが驚きですよね。生地には気泡が入っていて、それがまたやさしい口あたりになっているんです」
――ぽっこり膨らんだ見た目もかわいいですね。確かにすずめが羽ばたいているように見えてきます。いただくと……あんこがこんなにたっぷり! しかもしっかり甘いですね! 生地がクレープなので洋風かと思いきや、和菓子ど真ん中。これはあんこ好きにはたまりませんね。
田中さん「先ほどの『もみじ饅頭』と使われている材料の種類自体は大きく変わらないのに、味が全然違いますよね。洋菓子のように材料にバリエーションがない中で、小豆や砂糖の種類・産地など素材の違いでガラリと味が変わるのが和菓子のおもしろさでもあると思います」
③【岡山県】茶席に出す新しいお菓子としてアレンジされた「きびだんご」
田中さん「やはり、岡山県の銘菓といえばこの『きびだんご』が思い浮かびますよね。昔、岡山県ではきびがよくとれたため、きび粉を使った団子が日常的に食べられていたそう。それがお茶席に出す新しいお菓子として日持ちなどを考えてアレンジされて、現在のもち米と上白糖、水飴を混ぜ、風味付けにきび粉を加えたものになったようです」
――お餅だけのとてもシンプルなお菓子ですが、ひと口サイズなのもあってか、後から後から食べてしまいます。そして、<廣榮堂>のきびだんごといえば、この五味太郎さんのイラストも人気ですよね。
田中さん「甥っ子がこのイラストを見て大喜びするんです(笑)。本当に見てかわいい、食べて美味しいお菓子だと思います。五月の節句には、兜や鯉のぼりのイラストをあしらった期間限定版も登場するんですよ」
④【山口県】帰京途中の金さんが作った「亀の甲せんべい」
田中さん「江戸の金さんが長崎で菓子を学び、その帰京途中に立ち寄って開業したから……という屋号のいわれからしてユニークなのが<江戸金>の『亀の甲せんべい』です。山口県下関の氏神・亀山八幡宮の縁起菓子として作られたそうです」
――本当に見た目が亀の甲羅そっくりですね。瓦せんべいの中には割るのも大変なほど硬めに焼き上げられたものもありますが、これは思ったよりもパリパリしていて……かといってゴーフルほど薄すぎず、ほどよい硬さです。
田中さん「白ごまとケシの実が入っているからか、香ばしさもたまりません。亀の甲羅が印された缶もレトロ感たっぷり、媚びていない感じがいいですよね」
⑤【島根県】執念で再現された幻の銘菓「若草」
田中さん「名前の通り、鮮やかな若草色がインパクト大の『若草』は、昔からお茶文化がさかんだった島根県松江市のもの。若草色のそぼろの中は求肥です。このお菓子はかつて松江藩主・松平不味公が春の茶席の主菓子として挙げていたお菓子を、後世、<彩雲堂>の初代が苦心してよみがえらせたものだそう」
――どうしても食べてみたかった、というお菓子への執念を感じますね。求肥はもっちりと貼りつくような噛み応えで、かなり食べでがあります。サイズも大きいので、1つ食べると大満足です!
田中さん「緑茶だけでなく、コーヒーともよく合うんですよ。見た目もハッとする美しさなので、私にとっては心が弱っているときにいただくとリフレッシュできる、とっておきのお菓子のひとつです」
⑥【鳥取県】選び抜かれた白インゲンを使った「白羊羹」
田中さん「和菓子好きの人に、これ知ってる? って、すすめたいのがこの白羊羹。<つるだや>は鳥取県米子市の銘菓で、白インゲンが使われているのが特徴です」
――ちょっとねっとりとした舌触りで、白インゲンならではの豆の風味がありますね。小豆の羊羹とは見た目も味も全然違う。食べ比べてみるとおもしろいかもしれませんね。
田中さん「地元出身の人には食べ慣れた味なのだそうですよ。棹もので、見た目もきれいな薄い琥珀色なので、人の集まりなどでぜひ切り分けて出してみてほしいです」
山陽地方と山陰地方。風土の異なるふたつの地域ですが、人のあるところに銘菓あり。お菓子を食べながら、その地方の特徴に思いを馳せることができるのも、和菓子の魅力です。
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