2017.04.20
歴史を知ればさらに味わい深くなる、京都の銘菓。【にっぽん、いとお菓子。#8】
「にっぽん、いとお菓子。」は、全国の銘菓を年間1,500種類以上食べ尽くしている三越伊勢丹和菓子担当バイヤー・田中美穂さんがイチオシの銘菓を紹介する連載企画。47都道府県ごとにセレクトし、北から順に日本銘菓の魅力をお届けしています。
今回は、老舗和菓子店が多く存在する京都の銘菓をピックアップします!
京都で愛されてきた老舗銘菓5選
① <三條若狭屋>祇園ちご餅 (1包・3本入) 389円(税込)
② <本家尾張屋>そば餅(1個) 108円(税込)
③ <河道屋>蕎麦ほうる(1袋) 540円(税込)
④ <亀屋良長>烏羽玉(6個入り) 486円(税込)
⑤ <長久堂>雲錦(うんきん)(1箱) 1,458円(税込)
「京都の和菓子といえば、見た目に漂う品格や洗練された味わいが印象的ですが、生まれた背景にもぜひ注目を。古くから和菓子の文化が根付く京都だけに、歴史の深みが違います」(田中さん)
① 祇園祭の厄除けとして振る舞われた「祇園ちご餅」
田中さん「毎年7月に開催される京都の風物詩・祇園祭。かつて、厄除けの餅として振る舞われていたのが『ちご餅』。古くは室町時代の記録が残っていますが、いつの間にか廃れていたところを<三篠若狭屋>二代目が大正初期に再現したそうです」
──カラフルな短冊には、「疫を除き福を招く」と書いてありますね。竹の皮を模した容れ物も趣がありますね。
田中さん「祇園ちご餅は、甘い白味噌を求肥で包み、周りには餅を水に浸して凍らせ、乾燥させて粉状にした氷餅がまぶしてあります。包み紙にくっついてしまうほど求肥がふわふわなので、ていねいに開けてください」
──うわぁ、求肥が本当にやわらかくて、よく伸びる! まぶされた氷餅のザラッとした感じも印象的です。優しく甘い求肥に対して、中に入っている白味噌がいいアクセントになっていますね。
② 菓子屋が手がける蕎麦の味「そば餅」
田中さん「こちらの<本家尾張屋>は、室町時代(1465年)に尾張国から京都で商いを始めた菓子屋でしたが、江戸中期(1700年頃)になって禅寺に納めるために蕎麦作りを始めたというお店。現在もお店では、蕎麦とお菓子の両方を扱っています」
──お菓子屋さんが蕎麦作り。ちょっと意外な組み合わせですが……。
田中さん「<本家尾張屋>によると、そもそも蕎麦が「麺」として食べられるようになったのは、室町時代以降のこと。日本では主にお寺で食べられていましたが、江戸時代になると『練る・伸ばす・切る』の技術をもったお菓子屋にお願いするように。そのお菓子屋のひとつが<本家尾張屋>といわれています」
──なるほど。そんな理由があったんですね。
田中さん「前段の話しが長くなりましたが、<本家尾張屋>のそば餅は、明治時代に十三代目当主が考案したお菓子。蕎麦粉がたっぷり入った皮でこし餡が包まれていて、餅というより饅頭に近いですかね。蕎麦の風味が際立ったすっきりとした味わいですよ」
──皮は、厚みがあってしっとりとしていますね。口に含んだ瞬間、蕎麦の香りが広がります。こし餡に香ばしい蕎麦の香り、シンプルな組み合わせがホッとする味ですね。
③ 南蛮菓子の影響を受けて生まれた「蕎麦ほうる」
田中さん「<河道屋>も<本家尾張屋>と時を同じくして江戸中期から、蕎麦の扱いを始めた菓子屋。こちらの『蕎麦ほうる』は南蛮菓子の影響を受けて生まれたお菓子で、名前の「ほうる」は、オランダ語の「Pole」、ポルトガル語の「Bolo」の語感に由来しているそう」
──食感はサクッとしたクッキーのよう、蕎麦と卵の風味がしっかりとしていますがあっさりした後味。素朴で、パクパクつまみたくなる美味しさですね。お年寄りから子どもまで、みんなが好きそう!
田中さん「蕎麦ほうるは、製造がなかなか追いつかないほどの人気の商品。優しい味にハマる人が多いんでしょうね。私はちょっとアレンジして、シリアルのようにヨーグルトに入れることも。少しふやかして食べても美味しいんです」
④ 今も昔も新鮮に映る、つややかな美しさ「烏羽玉」
田中さん「京菓子の名門と言われ、江戸にまでその名を轟かせていたという<亀屋良安>から、暖簾分けする形で江戸時代後期(1803年)に創業した<亀屋良長>。『烏羽玉』は創業当時から作られ続けている銘菓で、黒糖を練り込んだあんこ玉を寒天でコーティングしています」
──濡れたようにつややかで、キレイですね。金箔のようにケシの実があしらわれていて、こういう美意識も京都ならではという感じがします。
田中さん「現代の私たちが見ても惹きつけられるビジュアルですが、江戸時代の感覚でもかなり斬新だったんじゃないでしょうか」
──砂糖ではなく、黒糖を使用した餡の甘みも新鮮です。
田中さん「ただ甘いだけでなく、食べたあとに風味や香りが広がるのも、黒糖ならでは。ちなみに、時代に合わせて配合を変えているそうで、明治時代ごろのレシピだと今より砂糖の割合が多かったそう。長年愛されるのは、時代に合わせて微妙に変化を加えているからかもしれませんね」
⑤ 雲のように軽い歯ざわりと優しい口溶け「雲錦」
田中さん「<長久堂>はもともと天保 2年(1831年)に<新屋長兵衛>という屋号でお菓子の製造販売を始めたお店。『新屋』は『新しいことに何でも挑戦する』という初代の意気込みを表していたそうです」
──『雲錦』は見た目がまず美しいですよね。ピンクの方は「花の雲(はなのさくら)」、緑は「紅葉の錦」を表現しているんですね。
田中さん「さくらの方には、梅肉糖。紅葉の方には、柚子糖が裏側に塗ってあります。麩焼きのせんべいなので、優しい口溶け。口の中で消えていくときに、裏側に塗られた砂糖の甘みと香りがじんわりと広がっていきます」
──本当だ、雲みたいに軽い! 目を閉じて、じっと余韻を味わいたくなるような……。京都のお菓子ならではの美的感覚のある一品ですね。
祭りの厄除けとしての役割があったり、お寺の依頼がきっかけで生まれたりと、お菓子の背景にある歴史の深みが違うのは、古くから和菓子の文化が根付く京都だからこそ。歴史の背景まで楽しむと、その美味しさが一層味わい深く感じられました。
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