2016.07.22
実は拡大している!?「江戸前」の定義とは? 東京近郊で獲れる美味しい魚をプロが解説
「江戸前寿司」という言葉を聞いたことがあっても、「江戸前」が指し示す正確な意味をご存知ない方は多いのではないでしょうか。「江戸前」とは、「東京湾そのもの」、または「東京湾で獲れる新鮮な魚のこと」。現代ではその定義は変わりつつありますが、東京の海が今でも美味しい魚の宝庫であることは変わりません。
江戸前を豊富に取り扱っている横浜魚市場の仲卸店・株式会社ムラマツの村松享社長に、最新の江戸前事情を教えてもらいました。
時代とともに拡大した「江戸前」の海域
「江戸前」のもともとの意味は「江戸城の前」、つまり羽田沖から江戸川のあたりを示すものでした。しかし、湾岸の埋め立てや開発などにより「江戸前」の定義は徐々に拡大し、現代では神奈川県三浦半島と房総半島の先端を繋ぐ範囲までが「江戸前」と呼ばれています。
黒潮の分流により、次から次へと新しい潮が流れ込む東京湾はプランクトンの宝庫。それを追ってかわるがわるさまざまな種類の魚がやってきます。その種類は400とも500ともいわれ、その約半数が食用になります。実は東京湾は、日本でもっとも豊富な種類の魚が集まる漁場なのです。
「江戸前」の魚の旬は、年々遅くなっている!?
たとえば夏の場合、かつて江戸前天ぷらの定番ネタといえば、キス、メゴチ、ギンポでしたが、最近は少し事情が変わっているそう。村松享社長は最近の江戸前事情についてこう話します。
「地球温暖化の影響により、元来の季節と海中の季節にズレが生じているんです。冬は越冬のために深場に移動してしまって捕れなくなるはずの魚が一年中水揚げされたり、旬より2ヶ月も前に水揚げの最盛期を迎えたりする魚がいるんです」
旬の魚だけが美味しいとは限らない
村松さんは旬とされる時期、つまり漁獲量の多いときに獲れた魚が、必ずしも一番美味しいとは限らないと言います。
「魚の味は獲れた海域、時期、獲り方、保管方法によっても大きく変わります。プロの目利きなら、その海域の魚が何を食べて育ってきたかを判断して、身質にあった美味しい食べ方を提案できますよ」
それでも夏の江戸前、この魚だけは見逃せない!
さまざまな条件を複合的に考えなければならないため、美味しい魚を自力で選ぶのはなかなか難しそうです。そこで、夏に旬を迎え、「これだけは食べなきゃ損」という美味しい魚を教えてもらいました。
【初夏の魚】
真子鰈(マコガレイ・カレイ)
全国の海に生息するためさまざまな呼び名があります。厚みがあり緑がかった色のものを選ぶと良いでしょう。
イサキ
産卵期を迎える夏は卵に栄養が移り、身が水っぽくなりますが、皮に近い部分には脂があるので、刺し身よりも炙りや焼き魚にするとふかふかの食感を味わえます。
マゴチ
マゴチの旬は真夏で、その時期は「照りコチ」と呼ばれますが、現代の江戸前では初夏の水揚げが増えています。砂沼地に生息し、刺身や洗いは江戸の夏を代表する白身になります。
【盛夏の魚】
鯵(あじ・アジ)
相模湾のほうから来たアジはエサがアミエビからシラスに代わり、身質が最高に美味しい状態になります。香りもあり、どんな調理をしても美味しくいただけます。
真穴子(マアナゴ)
江戸前の代表格的な魚。横浜方面で獲れるアナゴは猿島より内側で獲れるもののほうが美味だといわれます。イワシをエサにするため脂がのっており、白焼きはこの時期ならではの食べ方です。
太刀魚(タチウオ)
秋に脂がのる魚ですが、真夏の方が、ほんのりした脂と香りがあるので、刺身・塩焼きが美味しくいただけます。
夏の江戸前は比較的味が淡白で、さっぱりと食べやすい魚が多いようです。これなら、食欲が出ない時期にも美味しく食べられそう! 意外と知られていない江戸前の魅力、知ってしまったら食べてみなければ損です。ぜひ味わってみてくださいね。
取材協力 株式会社ムラマツ
横浜魚市場内にある仲卸店。東京湾や神奈川近郊の地魚を中心に取り扱っている。社長の村松享さん(写真左)は11歳のころから魚の仲卸に従事。「さかなマイスター」の一期生として小売店の店頭や学校・企業で魚の美味しさを伝えるためのレクチャーを行っている。
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