2015.11.01
日本を再発見! 有職菓子御調進所「老松」当主から学ぶ、月と日本人の睦まじい関係
日本の暦と切っても切れない、和菓子の世界。今回は、9月27日、2015年の「中秋の名月」の日に行われた歳時記セミナーに参加し、月と日本人にまつわる意外な関係について学びました。
月見そば、月見バーガー、卵かけごはん!? そういえば、日本には「月」にちなんだものが多い!?
月と日本人の関係をお話ししてくださったのは、有職菓子御調進所「老松」の現当主であり、茶人でもある太田達(おおたとおる)さん。海外の方だけで茶会を催すなど、日本文化に対して伝統を守りつつも柔軟な姿勢を持ち合わせている同氏が行うセミナーだけあって、当日は満員御礼。
「月にちなんだ食べ物、何か思い浮かびますか?」と参加者とフランクに対話をしながら、「中国には月餅、ヨーロッパにはクロワッサンがありますけれど、日本は月見うどんに月見そば、最近では月見バーガーもあるでしょ」と身近なところから関係を紹介してくださいます。さらに、見た目が月に通じるとして卵かけごはんも取り上げ、参加者から驚きの声が。月と日本人の意外な接点とその多さに、感嘆の声が上がりました。
段々に重なった月見団子は関東流、では関西は?
「月見団子って段々に重なったものもありますが、それは関東のかたち。関西は芋型をしています」。当日のセミナー参加者には、老松の月見団子と抹茶が振る舞われるというおいしい時間も。白くて丸い形に成形した団子は月の象徴で、関東ではそれを重ねるのがお月見のお供えですが、関西のお供えは中秋の名月の別名でもある「芋名月(この場合の芋は里芋のこと)」にちなんで、餅を里芋の形にしてあんこで包む「きぬかつぎ」が主流だそう。どちらも月を愛でるときに供えるお菓子ですが、セミナーでは関東と関西の文化的な違いにも触れることができました。
月といえばうさぎではなく……日本にはスーパースターがいるじゃないですか
しっとりとした老松のあんに舌鼓を打っている間に、セミナーは次の話題に。「十五夜」や、ためらうように出てくる「十六夜(いざよい)」、寝て待つほどにようやく出てくる「寝待ち月(ねまちづき)」など、月を表現する多様な言葉や万葉集の和歌が紹介されました。
また、風土記や日本書紀に書かれた月の神である「月読尊(つくよみのみこと)」に関する記述のほか、中国の「月の女神伝説」の解説も。「日本では、この人がいますね。スーパースターの、かぐや姫です」と、太田さんが紹介すると、またまた会場のアチコチから「ああ!」。日本人と月の親密な関係は、実は幼い頃から自然に培われているという発見がありました。
名月祭は収穫祭としても、日本人の生活に寄り添っている
太田さんいわく、中秋の名月の時期は作物の収穫が始まるタイミングでもあることから、「名月祭」を豊作を祈願し感謝をする収穫祭として祝う地域も多いそう。太田さんが主人を務める老松近くには菅原道真公をご祭神としてまつる北野天満宮があり、中秋の頃に「北野瑞饋祭(ずいきまつり)」が奉納され、京都に秋を告げる祭りとして位置づけられていると話します。収穫祭は京都だけでなく、日本各地で行われているため、日本人の暮らしに月がいかに浸透しているかがわかります。
身近で行われている行事や土地の祭りなど暮らしの歳時記を意識だって見てみると、そこにはまだまだ知らない日本が隠れていることも。秋は「月」がエッセンスで、セミナーではそれをきっかけに、日本人の生活と自然を表現する繊細さを知ることができました。
今後は、太陽を意識するようになる冬至があることから「陽」や、冬の寒さからくる「風」「雪」という言葉を頼りに、日本を再発見できそうです。
取材協力:太田達(おおたとおる)
京都最古の花街、上七軒に店舗を構える有職菓子御調進所「老松」の四代目当主。茶人として国内外で活躍する傍ら、大学や専門学校でも教鞭をとっている。京文化の美と知恵を未来につなぎ、豊かな人間育成の場として茶道、香道、能楽、和歌、今様などが体験できる有斐斎 弘道館(ゆうひさい こうどうかん)の代表理事も務めている。
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